番犬すぎる甲斐犬の話(長文です)

先月,全く別件で,同じようなお悩みのある甲斐犬2頭をご指導しました。

1件目は三重県から来てくれた甲斐犬のコロくん。1歳半の雄です。「攻撃的ではないが危険な行動が多い」との訴えで,散歩の時にランニングをする人などに飛びつくので驚かせてしまう,ということでした。元気でフレンドリーなゆえの行動だろうと予測し,制御方法を教えればいいと気楽に考えていました。
お泊まりのコテージに行くと,飼い主さんがコロくんを連れて外で待っていてくださいました。飼い主さんとお話をしながら横向きにゆっくりしゃがむと,コロくんも確かめるようにゆっくり近づき,遠慮がちながらこちらの顔を舐めてくれました。一切吠えたりはしなかったので,そのままコテージに入って行こうとすると,ズボンのすそを咬んで引っ張りました。気を許してじゃれてきたのかと思って顔をみると表情に緊張感がある。さらにコテージに近づくと,力は加減していながらも,ズボンだけではなく膝にも歯を立ててきました。あれ?これはまずいな,と思う間もなく突然吠え始め,コテージに入ってからは歯を剥き出して激しく吠え続けていました。(中に入らないように入り口に係留していただきました)

外で会った時は単に「危険のないよその人」という認識だったのが,泊まっているコテージ=自宅に準じる場所に近づくに連れ,傍若無人な侵入者という認識になったのだろうと思います。

話を伺っている間もずっと吠え続けました。ひと通りお話が終わって外に出てからも警戒されたまま。こちらから近づかなくても,後ろから来てもらって距離が近くなると飛びかかろうとします。リードがなければおそらく本気で咬んでいたと思われます。飼い主さんは攻撃ではなく遊びだと思っていたとのことで,明らかに攻撃行動であることを指摘するとショックを受けていらっしゃいました。人通りがほとんどない場所だったので,僕が何度もすれ違って,飛びかかった時の対応方法をご指導しました。(本当は後々の指導に差し支えるので攻撃対象役はやりたくなかったのですが)

住まいを守る行動や自分に近づく人間を排除する行動は,番犬としては役に立つ性質ですが,強すぎると現代社会では暮らしにくくなってしまいます。公園などで何人かの知人にはすごく甘えて可愛がってもらっている,ということで,安心して社会化期を逃してしまったようです。日本犬の場合,特定の人だけとどんなに触れ合わせても,他人一般への社会化とは別物です。

コロくんの強いテリトリー意識やよその人を警戒する性質そのものを無くすことはかなり難しいですが,攻撃行動にまでは至らないようにトレーニングしていただくよう,細かくご指導しました。真面目に実行してくださって,少しずつ成果は出ているようです。


その10日後,今度は東京から11ヶ月齢の甲斐犬のリーチくん(雄)が来てくれました。こちらはコテージではなく小さなペンションにお泊まりで,入って行くとやはり吠えまくられました。リーチくんの場合は吠えるだけで歯を剥くようなことはなく,怖さの裏返しで鳴いているだけであることがよくわかったので,同じ空間で飼い主さんとお話をさせていただきました。その間ずっと吠えていましたが,一切目を合わせずに時々食べ物を差し出しているうちに,徐々に吠える間隔が長くなって行きました。

外に出てからは全く警戒行動はなくなり,手の平を返したように甘えてきました。こちらがリードを持っても喜んで歩いてくれたので,一般的な散歩のトレーニングや臭気を使った宝探しなどをご指導しました。

飼い主さんは「リーチがこんなに人に吠えるのは初めて見た」とおっしゃっていましたが,よくよく聞いてみると,まだ自宅によその人が来たことはないとのこと。外では意識的にいろいろな人と交流させていたそうですが,新型コロナ流行の時節柄,よその人を家に呼ぶのは控えていたそうです。こういう状況では仕方ないことですが,感染防止を意識しながら,最初は親しい人から始めて,よその人に来てもらうようアドバイスしておきました。

リーチくんの場合は,特定の人だけに限定せずにいろいろな人と会わせていたので,ある程度の社会性は身についていたようです。ただ,外での警戒心と家に入ってくる人に対する警戒心はまた別なので,この点も日本犬では意識しておくことが必要です。

一昔前なら,誰にでも尻尾を振る犬は「役に立たないバカ犬」と言われたりしたものです。わずか数十年で社会状況が変わってしまいました。パピークラスに通わせれば社会性が身につくという単純なことでもなく,その犬の警戒心のツボに合わせた社会化トレーニングを組み立てる必要があります。